溶接甲子園(全国選抜高校生溶接技術競技会in新居浜) ~二人三脚で勝ち取った溶接日本一~

表彰式後に。高橋さん(右)と中原先生

2024年8月、愛媛県新居浜市で開催された第8回溶接甲子園
被覆アーク溶接部門では、高橋澪さん(大阪府立東淀工業高等学校機械工学科3年)が最優秀賞及び日本溶接協会会長賞を受賞しました。
表彰式では、付添の中原あいか先生(大阪府立東淀工業高等学校)がうれし涙を流していたのが印象的でした。
この競技会は被覆アーク溶接と炭酸ガスアーク溶接の2部門ありますが、両部門を通じて女子生徒のトップ受賞は初めてのことです。
指導されたのも女性教諭のため、注目を浴びました。
女性コンビで勝ち取った溶接日本一。大会までの練習や溶接への思いについてインタビューしました。

まずは高橋さんからです。

--高橋さん、溶接甲子園での最優秀賞受賞おめでとうございます。「溶接女子」はまだ少ない現状ですが、工業高校の機械工学科に進学した理由と、溶接を始めたきっかけから教えて下さい。

ものを作るのが好きで、機械工学科が楽しそうだったので、この高校に進学しました。溶接は、高校に入学して1年の授業で初めて体験しました。その時に先生に「センスあるね。大会とか興味ない?」と声をかけていただいたのがきっかけです。

--溶接をやってみて、魅力や大変だなと思うのはどんなところでしょうか?

被覆アーク溶接で、角度や電流値に気を付けながら行わないと穴が開いてしまいます。自分に合った条件を見つけるまで上手くいかず難しいと感じていましたが、自分の条件を見つけられ上手くビードを引けたとき満足のいく作品が出来、すごく気分がよくなります。
大変なところは、スラグを剥がすときです。剥離しないと内部欠陥につながるので、しっかり体重をかけて行わないといけないところです。

--当協会 溶接技能者の資格をお持ちでしたら教えて下さい。

N-2F※1を取得しています。1月にN-2V※2に挑戦します。専門級なので難しいですが、楽しみにしています。

--普段はどのくらい溶接の練習をしているのでしょうか?練習の内容も教えて下さい。

放課後に2、3時間程度です。基本的にコンクールの課題であるN-2Fを練習しています。ただ回数をこなすのではなく、ひとつの溶接が終わった後に振り返りを行い、次に活かせるように反省会を行っています。

--溶接甲子園に向けては、毎日6時間ぐらい練習したとうかがいました。どんなことを心掛けて練習しましたか?

必死で行っていたので、溶接以外の事は考えられませんでした。
練習は本番であり、本番は練習であると企業の方に言われたので、その事を意識して練習に励みました。

--最優秀賞を受賞された感想を聞かせて下さい。

正直、今でも実感はわいていません。作品に納得していないからだと思います。

--今春から近畿車輛に就職されるとうかがいました。今後どんな事をやりたい、また心掛けていきたいですか?

社会人になっても溶接のコンクールはあるので、もし機会があれば挑戦したいです。
また、どんな部署に配属されても頑張っていきたいと思います。

--溶接指導されている中原先生はどんな先生でしょうか?

すごく元気で唯一の女性の先生なので、相談しやすく、親しみやすかったです。だめな事ははっきりと伝えてくれるので、本当に学校でのお母さんみたいな感じです。私達といると、親しみがあるからこそ、よく生徒に間違えられています。それだけ近い存在です。

--溶接に従事する女性が少しずつ増えています。興味を持っている方、始めた方に応援メッセージ等をお願いします。

溶接は危険な作業ではありますが、出来栄えが良いとやりがいを感じます。一度体験してみることが大事だと思います。私もそうですが、コンクールなどにチャレンジし、いい成績がとれたら達成感があります。何事にもチャレンジすることが大切だと思います。

【参考】溶接の資格や種類
溶接技能者について(日本溶接協会 溶接lab)
N-2F※1・・・被覆アーク溶接 基本級[中板下向き突合せ]
N-2V※2・・・被覆アーク溶接 専門級[中板立向き突合せ]

溶接の練習をする高橋さん

続いて、指導教諭の中原先生におうかがいします。

--中原先生ご自身の溶接歴について教えて下さい。

私自身の溶接歴は浅く、5年です。初めて溶接したのは高校生の時です。工科高校の授業で少し溶接をしました。一般企業に勤めた後、5年前に学校で働きだしてから溶接に携わっています。メインの指導教諭が転勤されることとなり、引き継いで今年度から本格的に溶接の指導を行っています。

--貴校では機械工学科での溶接授業の他に、溶接のクラブ(部)等がありますか?ありましたら、人数や練習時間を教えて下さい。

本校では、溶接部というのはありません。あくまでも部活動ではなく、頑張りたい生徒を指導しています。現在は6名ほどです。
1年生の時、授業で溶接にセンスのある生徒に声をかけることもあります。
あとは、溶接に興味をもって頑張りたいという生徒に募集をかける形で行っています。

--貴校では溶接の大会や資格取得について、どんな取り組みをしているのでしょうか?

資格取得については、案内を出して希望を募っています。
大会についても、参加募集をかけています。ただ、軽い気持ちで出場してほしくないので、体調不良以外での欠席をしない、出場するからには、学校代表として全力で取り組んでほしいと生徒には伝えています。
また、地元の企業の方からもアドバイス等支援をいただきながら、技量をみがいています。

--先生が溶接指導において、心掛けていることは?

しっかり振り返ること。技量を上げることはもちろんですが、ただただ回数をこなすのではなく、うまくいった点、いかなかった点について、一つ一つしっかり考えながら溶接をすること。
溶接は焦ってしまうと、ビードにも影響します。落ち着いて、自分は上手い!という自信を持たせ、会場が変わっても条件がしっかりだせていれば、いつも通り出来る。というのを生徒には伝えています。

--高橋さんの溶接に対する姿勢や技術等について思うこと。また、後輩の皆さんはどんな感じで高橋さんを見ているのでしょうか?

彼女は、溶接にただひたすらマイペースで取り組んできました。決して作業が早いとは言えませんが、そのマイペースが溶接する姿勢の中にもあるので、本番でもいつも通り出来たのだと思います。
後輩たちは、高橋の他にも全国や大阪の大会で1、2位を争っている生徒がいるので、先輩みたいになりたい、自分も大会で入賞したいと強い意欲があります。来年度も頼もしい生徒ばかりです。

--溶接甲子園での高橋さんの成績や出来についてはいかがでしょうか?

被覆アークで唯一内部欠陥が0と聞いた時、これが大きく点数に左右されることがわかっていたので、良かったと一息つけました。本人も言っていましたが、裏波がほんの少し飛んでしまった点と、表が普段よりも幅が広く少しビードの乱れがあると思いました。
ただ、この緊張するような会場でここまでの成績を出せたことは100点です。本人は納得していないし、向上心があるので、私は高橋には満点ですとは一回も言ってはいません。きっと高橋も100点と言ってほしくないと思います。本人の性格をよく知った上で、言ってはいません。これからのさらなる活躍に期待しています。

--卒業される高橋さんへ一言お願いします。

卒業しても学校に来ると言っていますので、寂しいとは思っていません。
社会人になったら苦難もあると思いますが、これまで通りマイペースに自分らしく何も飾らない高橋のままでいてほしいと思います。
ただ仕事には納期があるので、そこはしっかり期日に間に合うように、予定を組んで早く丁寧に仕事には取り組んでもらいたいですね。

--溶接に従事する女性が少しずつ増えています。興味を持っている方、始めた方に応援メッセージ等をお願いします。

溶接は携わったからこそわかる面白味があります。丁寧な作業だと思うので、手先が繊細だと言われる女性がもっと増えればいいなと思います。
男女平等、頑張れば出来る仕事です。もし興味があるならば、是非チャレンジするべきだと思います。しない後悔より、やったからこその達成感はありますし。
そして、女性の溶接指導者も増えればいいですね。

【インタビューを終えて】
インタビューでは、終始お二人で顔を見合わせながら笑顔で答えてくれるのが印象的でした。
高橋さんは高校3年間、溶接をやっていて、とても楽しく充実していましたと話していました。いつも中原先生が近くで見守り、厳しさと優しさを持って接している様子が感じられ、良い信頼関係を築いているように見えます。高橋さんが好成績を出す原動力のひとつにもなっている気がしました。
社会人になったら、当協会主催の全国溶接技術競技会(溶接技能日本一を競う大会)にもチャレンジしてみたいとのこと。競技会出場選手一覧で名前を見つける日が楽しみです。
先日の学校見学会では、溶接甲子園で活躍してメディアに登場した高橋さんの影響もあって、多くの中学生が溶接体験をしたそうです。
中原先生は、今後も生徒の溶接指導をするのが楽しみですと話してくれました。
お二人とも本当に溶接が好きなのが感じ取れる、素敵なひとときでした。
ありがとうございました。

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