なぜ溶接は重要か

溶接界の今

金属材料にはさまざまな

特徴がある

世の中で利用されている金属材料は一つの元素で構成されるものはほとんどなく、強さや硬さ、粘度、錆びにくさなどを最適化するため、さまざまな元素が混ぜられています(複数の元素で構成される金属を合金と呼びます)。例えば、鋼(Feに0.02~2.14重量%の炭素を含む合金)では、炭素だけでなく、珪素やマンガンなどが含まれる場合が多く、さまざまな種類の鋼が日本産業規格(JIS)などに規定されています。また、金属材料の性質は、熱や力の加わり方などによっても変化するため、実用される金属材料は製造や使用段階での加熱・冷却や加圧の方法が厳密に制御されて作り込まれ、板やパイプ、棒として世の中に供給されています。

溶接は工業製品の製造工程の中でも非常に重要なプロセス

これらの金属材料を実際に利用するためには、板やパイプのままで使われることはなく、作りたい工業製品、例えば自動車、船、鉄道車両、橋、建物、スマートフォンなどの形状に合わせて切断し、つなぎ合わせる必要があります。つなぎ合わせる技術が「溶接」であり、工業製品の製造工程の中でも非常に重要なプロセスの一つとなっています。

電気を流すことで高温状態を作りその熱を利用するアーク溶接

溶接で2つの金属材料をつなぐ場合、一般的には二つの材料を合わせた部分を局部的に加熱し、溶かして固めて一体化する方法が用いられます。最も広く用いられる方法がアーク溶接であり、電気を流すことで高温状態を作り出し、その熱で金属材料を溶かして一体化しています。一般に大きな電流を流すほど高温状態になるため、電流の流し方によって金属材料の溶け方や熱影響が変わります。電流が小さければ金属材料の溶かし方が不十分になり、溶接欠陥として残ることがありますし、電流が大き過ぎれば熱影響が大きくなり、材料製造時に作りこまれた性質が失われてしまうことがあります。また、溶けた金属は酸素や窒素、水素などを多く吸収できるため、周囲に水分や空気があればこれらが多く溶け込みます。しかし、固まるときに吸収できる量が著しく低下するため、溶け込めなくなった酸素や窒素、水素は気孔(ブローホール)を形成したり、窒化物や酸化物などになって残存したりし、溶接後の材料特性を低下させる原因となります。すなわち溶接を行うと、金属材料が本来示すべき特性を満たさなくなる場合が多いため、アーク溶接時の電流を適切に制御して、金属材料の溶かし方を適正化できる技能が必須ですし、水分や大気が巻き込まない工夫が不可欠です。

新しい材料に併せて、

溶接の技術も進化

最近では、含有元素に加えて、熱や力の加え方を最適化することで、優れた諸特性を示す金属材料が多く開発されています。これらも溶接なしには実使用できませんが、溶接に伴って著しい特性劣化が生じることが多々あります。しかし、特性劣化を理由に新しく開発された金属材料の利用を避けることになれば、せっかく開発した意味がありません。そこで、溶接に伴ってなぜ特性が劣化するのか、そして、どうすれば特性の劣化を防げるのかを科学的に明らかにし、実際の溶接工程で上手にコントロールすることが必要となります。材料が変わればその対策も多岐に渡るため、新しい材料が開発される限り溶接は永遠の課題として残りますし、“溶接の科学”は非常に重要な学問と言えます。