社会を支える溶接
溶接界の今
溶接でつくられた製品は社会全体にあふれています。飛行機やロケットなど空に。船や洋上風車など海に。電車や自動車など陸に。そして住宅や発電施設など生活に。溶接がないと社会は成り立たず、ものづくりの基盤技術といわれます。
空に
大空を飛び交う飛行機や宇宙に向けて発射されるロケットは、過酷な環境に耐える強度・耐久性に加え、軽量化が求められます。
また、チタンやインコネルなど特殊な素材を使用するため、その溶接には高度な技術と匠の技が必要となります。
航空・ 宇宙用途の厳しい要求に対応する最先端の溶接技術は、 幅広く一般の製品に活用され、日本の製造技術の発展に寄与しています。
H-IIBロケット
宇宙に飛び立つロケットで、最も重要な技術の一つが軽量化です。 従来、高価な特殊合金を複雑に削り出すことで軽量化していましたが、積層造形 (Additive Manufacturing/3Dプリンタ)による、複雑な造形を実現する研究が進められています。 一般的に3Dプリンタはプラスチックを連想しますが、 溶接が起源の製造技術です。
国際宇宙ステーション
国際宇宙ステーションでは日本人宇宙飛行士も活躍しており、宇宙での生活が現実味を帯びてきました。宇宙飛行士は宇宙空間でのさまざまな作業を要求され、溶接もその一つとなります。
そのため無重力、真空下での溶接・接合技術の研究が進められています。
ヘリコプタ
ヘリコプタの機体は一般的にリベットで接合されていますが、副資材が不要で軽量化が図れるとされる、FSW (摩擦攪拌接合)やFSSW (摩擦攪拌点接合) のような、新たな接合法の適用が研究されています。
ロケットエンジン
ロケットエンジンには、液体酸素と液体水素が燃料として使用されます。燃料が流れる多数のパイプで構成されるノズルスカートは、燃焼ガスによる高温と液体燃料による超低温にさらされますが、この複雑で高い信頼性を要求される部品は、熟練技能者による溶接で製作されています。
海に
四方を海に囲まれた日本では、船舶や港湾設備など海にかかわる設備が重要な役割を果たしています。 船舶や洋上風車の大型化に伴って使用する鋼板は極厚になってきており、強度・安全性を確保するため、高能率な溶接法が必要となります。また、海水の塩分による影響などを受けるため、使用される材料だけでなく、溶接部にも高い防食・耐食性能が要求されます。
有人潜水調査船
深度 6,500mまで潜ることができる「しんかい 6500」。パイロットや研究者が乗り込むコックピットの耐圧殻は、高い水圧にも耐えられるよう分厚いチタン合金で作られています。その接合部には、信頼性の高い溶接を行うために電子ビーム溶接を用い、高精度の真球形状を実現しました。
水中溶接
海上構造物では、海中での溶接も必要となります。海中という特殊な環境下でも可能な溶接技術を適用し、潜水士免許を持った溶接技能者が活躍しています。
コンテナ船
数ある乗り物の中でも、ひときわ巨大な船。強度・安全性を保ちながら効率よく船体を製造するため、高強度高靭性極厚鋼材と大入熱2電極エレクトロガスアーク溶接法とを組み合わせた、高度な溶接技術が使われています。
羽田空港D滑走路
多摩川の河口にかかる羽田空港D滑走路は、川の流れを阻害しないよう桟橋状になっています。
この桟橋部分の溶接に、希土類金属添加ワイヤを使用した、スパッタ深溶込み炭酸ガスアーク溶接が適用されました。
洋上風力
自然エネルギーである風力を電力に変える洋上風車。強風や、繰り返しぶつかる波の衝撃にも耐えられるよう、極厚鋼板が使用されています。
高速で信頼性の高い溶接ができるように、専用の溶接材料を用いたガスシールドアーク溶接が使われています。
陸に
日本の交通の大動脈と言われる新幹線を代表とする鉄道や、物流を支えるトラック、生活の足である自動車やバイクなど、陸上を走るさまざまな車両のほとんどに溶接技術が使用されています。
時速300km以上で走行する新幹線や、次世代の超特急リニア新幹線などの高速鉄道車両や自動車では、低燃費化のための軽量化に加え、空気抵抗を抑える滑らかで美しい表面を実現する、高い溶接技術が求められます。
鉱山トラック
鉱山で活躍する超大型ダンプトラック。強度と耐久性を要する車体には、厚板のマグ溶接が多用されます。建設機械では低コスト化のため、複数の溶接ロボットを協調制御し、複数箇所を同時に溶接できるシステムも導入されています。
ハイブリッドバス
省エネの代名詞ハイブリッドは、バスでも実用化されています。軽量かつ堅牢、歪みが少なく精度の高い車体を実現するため、スポット溶接をはじめ、さまざまな溶接技術が使用されています。
新幹線
時速300km以上で走行する新幹線。FSW (摩擦攪拌接合)、ミグ溶接を採用することで、気密性や遮音性に優れ、高強度・高剛性でありながら車体の軽量化も図ることができ、高速走行を可能にしています。
ハイブリッド自動車
街を走るほとんどの自動車にスポット溶接が使われており、他の接合方法に比べ、高い生産性と品質を実現しています。近年では一部の部品でFSW (摩擦攪拌接合)が適用される車種もあり、軽量高剛性化による商品性と品質の向上に寄与しています。
鉄道
列車が走行する時の騒音・振動低減や、乗り心地向上などの利点があるロングレールは、レールセンターや敷設現場でガス圧接・テルミット溶接・フラッシュ溶接などの溶接法を用い、レール同士を溶接して作られています。
生活に
世界でも有数の地震国と言われる日本。わが国の高層建築物や巨大な橋梁をはじめとした社会インフラには、高い耐震性が求められています。
私たちの身近にあるさま ざまな構造物は、その安全性を十分に保障する高度な溶接技術と信頼性の高い溶接技能で成り立っています。
耐震性や安全性を高めるための素材がその強度を発揮するには、溶接部の信頼性確保が絶対条件です。溶接施工された箇所は放射線や超音波を利用した 「非破壊検査」により、その安全性を確認しています。
高層鉄骨建築物
鉄骨造が主流の高層ビルでは、室内の「無柱化」の需要が増えています。溶接には高い品質が求められ、高張力鋼板を効率よく溶接できる施工技術が確立されています。
メガネ
近年、メガネフレームにも接合技術が使われています。高輝度レーザによる低入熱溶接技術を駆使することで、今までできなかった微小接合ができ、かけ心地とデザイン性が両立されています。
プラント
魅了される人が増えている工場夜景。
工場群には、パイプが複雑に張り巡らされた各種プラント機器が配置されています。
高温・高圧にも耐えられる強度・信頼性が要求される重要箇所は、ティグ溶接によって接合されています。
高層建築
2012年に完成した東京スカイツリーは、従来の常識を覆し、大口径のパイプ を複雑に溶接して作られています。
高度な溶接施工技術が使用されていることに加え、高所での溶接など、卓越した溶接技能を持つ作業者が活躍しました。
軽量鉄骨住宅
高い耐震性を特徴とする鉄骨住宅では、溶接部の強度と信頼性が重要となります。構造部材の組立指示や、溶接状況のデータ記録と品質確認はコンピュータで厳しく管理され、高品質な住宅を供給しています。
溶接界の今
Welding World